青春は、数学に染まる。 - Second -
その後
「真帆…本当に学校に来られて良かったぁ…」
「有紗、色々ありがとうね」
月曜日、普通に歩けるくらいまで回復した私はいつも通り学校に来た。
「お礼はいらないよ。私、先生に真帆のこと頼まれているから。私のこと先生だと思って!」
「…それは無理があるよ。有紗は有紗だし」
「まぁそもそも、別に頼まれなくても真帆のそばから離れないけどね!!」
教室に入ると、私の顔を見た数人が駆け寄ってきた。
神崎くんと取り巻き4人は…いない。
クラスの人たちと会話をしていると、教壇でラクダ色カーディガンの集団に囲まれていた浅野先生が飛んできた。
「藤原さん…おはよう。心配したよ、大丈夫?」
「あ、はい。大丈夫です」
「えっと、聞きたいことあるからちょっと来て」
「え?」
もうすぐ始業のチャイム鳴るけど…。
「浅野先生、私目撃者だから一緒に話すよ」
「いや、取り敢えず藤原さんから聞くだけだから。今はいいよ。また的場さんにも聞くかも」
そう言って教室から連れ出された。
「藤原さん、ちょっとこっち!」
そう言われ、連れてこられたのは教室棟にある面談室。
私が入ると先生は扉を閉めた。
「藤原さん…早川先生から聞いたよ。クラスの子から暴力振るわれたって。その顔の湿布も暴力が原因?」
怪我の痛みはかなり良くなった。
ただ、顔も痣で紫になっているから…それを隠すために貼っている。というのもある。
浅野先生は私に目線を合わせて、両手で私の肩を持った。
早川先生が見たら火を噴きそう。
そんな光景。
「そうです。顔も体も痣だらけです。激しくやられました」
「何でまた…。どうしてこうなったの」
「………」
浅野先生は詳しいことを知らないのかな。
早川先生が意図的に言わなかったのか、それともまだどう処分するかを考えているのか。
私には分からない。
早川先生が何かを考えているかもしれないから。
余計なことを言わないようにしようと決めた。
「…私、自分の口から言いたくないです。思い出すだけで苦しいです」
思ってもいないことを平然と言う自分に少し恐怖感を覚える。
しかし、浅野先生を誤魔化すには十分。
「あ…いや、そうだよね。…ごめん、詳しいことは早川先生から聞くから…。というかさ、何で早川先生に助けを求めたの?」
「…数学補習同好会の活動前だったからでしょう。早川先生を呼んだのは私自身ではなく、的場さんなので詳しいことは分かりませんが」
「あ、そうか。…そうよね。…いや、何で担任の僕じゃなかったのかなって思って。…ごめんね」
「…いえ」
問題が起こった時に担任を呼ぶというルールはないはず。
この人は何を気にしているのだろうか。
浅野先生は鼻から息を吐きだし、小さく唇を噛む。
先生は何か言葉を継ごうとしていたが、始業のチャイムが鳴り響きだした。
「あ、ヤバ! 藤原さん教室戻るよ。ごめんね、話してくれてありがとう」
「…はい」
教室に戻る際、3組の前を通る。
ショートホームルームを開始していた早川先生は、廊下を歩く私と浅野先生の姿を見て目を見開いていた。