青春は、数学に染まる。 - Second -


「うち、3組の近藤愛華(こんどうあいか)! 部活は卓球部だよ!」
「同じく3組の津田瑞穂(つだみずほ)。私は文芸部。よろしくね」


実行委員って明るくて元気があって友達が沢山いて、青春しているような人がなるって思っていたけれど。どちらかと言えば津田さんは私寄りの人かも。

眼鏡を掛けている人が大人しそうというわけでは無いけれど、凄く真面目で大人しそうだ。


「俺は2組の神崎大輔、軽音部だよ」
「知ってる!! 神崎くんは人気だもん! 一緒に係ができるのが嬉しいよ!」

近藤さんはそんな甘い声を出して拍手する。

神崎くんの件は知らないのかな。
最近、神崎くんに友好的な人をあまり見かけないから新鮮だ。


「私は藤原真帆。数学補習同好会で活動してる」


そう言うと、津田さんがバッと顔をこちらに向けた。


「早川先生の同好会?」
「え、うん。そうだよ」
「そうなんだぁ…」


津田さんは目線を下に向けて黙り込んだ。
近藤さんは首を傾げながら私と神崎くんを交互に見る。

みんなで、首を傾げた。






係が決まり、次回の話し合い内容を決めたところで実行委員会はお開きとなった。
時間的には部活が始まって1時間が経過したところか。

有紗はもう帰ったかな。


「じゃあみんな、またね!」
「うん、お疲れ」

明るく元気な近藤さん。
実行委員会では無かったら関わらないタイプの人だと、頭の片隅で思う。

「俺も部活行くよ。また明日ね、藤原さん」
「うん、バイバイ」


………。


最後、残っている津田さん。
何かを考えているような表情をしている。


「…津田さん。私も行くね。お疲れ」
「待って。…私も、行きたい」
「え?」
「私、数学補習同好会に入りたいの」


想定外の言葉に体が固まってしまった。
まさか数学補習同好会に入りたい生徒がいたなんて。

眼鏡の奥に見える津田さんの目が本気で、思わず後退りをしてしまう。


「どうしても入りたいのに、数学補習同好会は部員募集をしていないから入れなくて。早川先生も入れさせられないって言うし…その上、同好会に所属している人にも会えなかったの。…だからさっき、藤原さんが数学補習同好会って聞いて…びっくりしちゃった」
「………どうして、入りたいの?」
「…初めて会話した人に言うことでは無いんだけど。私、早川先生のことが好きなの。先生が担任になって、数学補習同好会っていうものが存在していることを知って、転部したいって強く願うようになったの」
「………………」
「藤原さんから早川先生にお願いしてみてよ。私、どうしても入りたい」


全身が震えた。
頭をハンマーで殴られたような衝撃を覚え、眩暈がする。

やばい…倒れる。



「津田さん。早川先生の言う通り、数学補習同好会に新入部員は入れられないの。学校のルールだからさ、ごめんね?」

浅野先生は倒れそうになった私の体を支え、津田さんの方を見る。

「…何で、浅野先生が出てくるのですか」
「僕も顧問なんだ。数学補習同好会」


怪訝そうな津田さんを他所に、浅野先生はマイペースに話し続ける。

「あと、余計なことだけどさ。早川先生、全然面白く無いよ? 先生目的で数学補習同好会に入ったところで、本当に数学の勉強しかしないし。何か雑談をするわけでも無い。だから、好きっていう感情だけで動くのは止めといた方が良い。君、文芸部でしょ? そこにいたほうが、将来のためにもなる」

浅野先生がそう言い終わると、津田さんは乱暴に鞄を持った。

「浅野先生に何が分かるのですか。早川先生の素敵さ、かっこよさ、溢れ出る大人の魅力と、真面目さ。浅野先生とは正反対だから分からないと思いますけど。面白いとか面白く無いとかどうでも良いのです。私は、早川先生の指先まで、愛しています」

そう言い残して津田さんは会議室から出て行った。
それと同時に、私の意識も遠のいて行った。







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