青春は、数学に染まる。 - Second -


「………裕哉さん」
「何ですか」
「幸せすぎます」
「…そうですね。僕も同じ気持ちです」



広場のベンチに座って2人でパフェを食べている。

甘い物ばかり食べている私たち。
私も先生も欲求に素直だから、美味しそうなものを見ると抗えない。


「…真帆さん。今度、スイーツのバイキングに行きませんか」
「最高…! 是非、行きましょう」
「ありがとうございます。僕1人だとハードルが高くて。真帆さんと一緒に行きたいです」


ほんの少しでも1人で行こうかと考えた先生、尊敬する。

私でも無理だよ。
スイーツのバイキングに1人だなんて。


「また楽しみが増えました」
「そうですね。受験シーズンに入るまでは沢山楽しみましょう」



受験…。頭が痛くなる響き。
けれど一生高校生でいられるわけでも無いし。

必ず通らなければならない道。



無言で少し考えていると、先生がゆっくりと口を開いた。



「……真帆さん。数学以外の科目は全て高成績ですけど、中でも得意な科目は何ですか?」
「得意科目…?」


急な質問に目が点になる。

そんなこと考えたことは無かった。
けれど…。


「…強いて言うなら、情報です。得意なのもそうですが、何より好きです」
「そうですか、意外ですね。情報って理数系ですよ」
「理数系ですけど、情報は出来ます」
「微積分とか数学と重なる部分もありますけど」
「それは出来ます」
「数学では出来ないのに?」
「情報なら出来ます」
「…………」


先生は口を尖らせて少し下を向いた。
そして、発せられた言葉。


「…情報に嫉妬しそうです」


思わず、笑いそうになった。


いや、先生なら情報という科目にすら嫉妬するだろうとは思っていたけれど、まさか本当だなんて。

予想通りすぎて面白い。


「けど…数学が苦手だから補習を受けることになり、今があります。そう思えば、数学が出来ないのは良いことだと思いませんか?」
「………そうですけど。開き直らないで下さい」


先生はパフェをすくって口に運ぶ。
食べながら何かを考えているようだった。


「ところで、何で得意科目を聞いたのですか?」
「あぁ…いや、真帆さんはお勉強が出来ますから。高校教師という将来も有りかと思いまして」
「高校教師!?」


これまた1ミリも考えたことの無かった職業。

私が先生たちと一緒に働くの?
…全く想像がつかないんですけど。


「情報が好きなら、情報科目の高校教諭免許を取得出来る大学に行くとか。そうやって進路を決めることができます。勿論、教師というのは僕が勝手に言っているだけなので参考程度に聞いてくれるだけで良いですけど。真帆さん学校がお好きですし、適任かと思われます」


……なるほど。

そう言われてみれば、そんな気がしてきた。



「ていうか私、裕哉さんに学校が好きって話したことありましたっけ?」
「話してもらったことは無いです。補習前や考査週間中、校内を探検していたので、お好きなんだろうなって思っただけです。普通、探検しませんから」


懐かしい。
けれど確かにそうだ。


1年生の頃はよく探検をしていた。
最近は全然していないが。



「まぁ、すみません。いらないこと言いましたけれど、夢が無いとかやりたいことが無いって言うのではなく、自分の得意なことから、やりたいことを見つけていくのも手ですよって言いたかっただけです」


先生は私の頭を優しくポンポンと撫でてくれた。


そうよね。
逃げてばかりでは、つまらない。


「分かりました。本当に、先生の言う通りです。色々考えてみます!」

そう言ってガッツポーズをすると、今度は私の頭を指で突いた。

「今、先生って言いましたね」
「.........あ。…裕哉さんが教師みたいなこと言うから…」
「まぁ、教師なんですけど」
「………先生は先生であり、裕哉さんは裕哉さんです」
「どういうことですか」
「哲学的見解です」
「それ、使い方合ってますか?」
「……分かりません」

自分でも言っていることが訳分からなくて面白くなる。

日本語は難しい。
その言葉の意味を正しく使えているかどうか分からない。

間違って使っている言葉も沢山あるだろう。

「私、国語教師にはなれませんね」
「哲学って国語なんですか?」
「…哲学的見解の言葉の意味を問うなら、国語ではないですかね?」
「そうなんですか? 僕は理数系以外については皆目見当が付きませんが」
「あ…もしかして私の方が賢い…!」
「……何を言っていますか。僕と張り合う前に、まずは数学も90点以上を取って下さい」
「絶対に無理〜」
「まぁ、そうですね。真帆さんには無理ですね」


先生酷くない!?

私自身が無理って言うのは良いけど、先生は無理って言っちゃダメだよ!


なんて理不尽なことを思いながら、何故か自然に笑いが零れる。


本当に、楽しい。
先生と2人で過ごす時間が楽し過ぎて幸せだ。



「さて、そろそろ帰りましょうか」
「はい!」


先生の手を取ってベンチから立ち上がる。



帰り道も話題は尽きることなく、先生と沢山のお話をして帰った。





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