青春は、数学に染まる。 - Second -
第八話 誰の目にも触れさせたくなくて
宣戦布告
(side 早川)
数学補習同好会の活動終了後、僕は1人数学科準備室で採点をしていた。
窓の外に目を向ける。
暗闇の中、白い雪がひらひらと舞っていた。
2学期の期末考査も無事に終わり、もうすぐ冬休みがやってくる。
毎年、クリスマス前になると浮かれた生徒が溢れる。
そんな生徒を白い目で見ていたものだ。
何が恋だ、愛だ、付き合うだ。
高校生なのに、ませている…なんて思っていた。
楽しみも特に無くて、ただ “教師” としての仕事を全うしていたあの頃が懐かしい。
まさか自分の感情が、ジェットコースターのように上り下りするとは思っていなかったし、お揃いのペン1つでここまで気持ちが高揚するとも思っていなかった。
僕は高校生ではない。
30歳の良い大人なのに。
本当に、どうかしている。
そんな僕の暗かった人生に彩りを与えてくれたのは、紛れもない真帆さん。
…真帆さん。
さっきまでここにいたのに、もう恋しい。
毎日学校で会っているのに、真帆さんへの思いが止まらない。
真帆さんが学校を卒業したら、今みたいに毎日会えなくなる。
その時の僕は、そんな現実に耐えることが出来るのだろうか?
「………」
……いけない。
先生モードがオフになっていた。
採点をしなければ。
そう思い、再び机の上に視線を落とす。
藤原真帆と書かれた答案用紙が目に入った。
…そうか。次は真帆さんの答案用紙だったのか。
それで物思いにふけていたのかもしれない。
真帆さんの答案用紙だとしても、解答を見ながら作業的に丸付けをする。
丸、バツ、丸………三角。
「…………あれ…?」
丸を付け終わり、採点をする。
点数は…54点だった。
「嘘でしょう…何かの間違いです」
真帆さんが聞いたら怒り狂いそうな一言を吐きながら、僕はもう一度採点をする。
しかし何度見ても、54点だった。
「え、凄いですね…」
中間は31点だったのに、まさか期末でここまで伸びるなんて。
むしろ、また赤点だろうなんて思ったりもしていた。
………。
それなのに、半分を超えている。
真帆さん。
やれば出来るではありませんか…。