青春は、数学に染まる。 - Second -
翌日朝。
いつも通り有紗と学校に登校すると、すぐに浅野先生に呼び出された。
「藤原さん、朝からごめんね!」
「…いえ」
教室棟の真ん中に配置されている面談室。
浅野先生と2人、部屋に居た。
「昨日の数学補習同好会のことなんだけど、早川先生が何で藤原さんと2人に拘るか理由知っている? 同好会なのに部員が増えない事、おかしいと思わない?」
…やっぱりその話。
ただ、これを朝早くから話すとは思ってもいなかったけれど。
「私は早川先生では無いので知りませんよ。私に聞かず本人と直接お話してはいかがでしょうか」
「いやだって、早川先生って聞いても答えてくれないからさ。藤原さんなら何か知っているかなって思って」
ニコニコしながら頬を触る浅野先生。
微笑んでいる表情の下に別の感情を隠しているようで怖い。
「何故かは知りません。そもそも、数学補習同好会が部員を募集していないことも昨日知りました」
「そうなの…!?」
浅野先生は着ているパーカーの紐をクルクルと弄る。
この人、教師なのに服装がラフ過ぎるのよ。
「あ、因みに。数学補習同好会の入部希望者を1人知っています。この人を入部させるよう早川先生に掛け合うのですけど、浅野先生が顧問になることも一緒に掛け合いましょうか?」
私がそう言うと、浅野先生は分かりやすく嬉しそうに微笑んだ。
「え、本当!? 是非、是非ともお願いします!!」
「部員の募集についても早川先生に掛け合ってみます。…ただ、浅野先生」
「はい」
「数学の勉強をする気が無い生徒は入れないで下さい。私、本気で勉強していますから。…先生の見た目に釣られている、頭の悪そうな集団のことを言っています」
「……はい」
自分から出てきた言葉にびっくりした。そして浅野先生もびっくりしている。
「先生がお約束して頂けるなら、私から早川先生に話しますね」
「ありがとう、ありがとう!! いや、藤原さん大人だね! 僕、びっくりしちゃった」
「良く言われます」
早川先生に。と心で付け足す。
本当は私だって、人が増えて欲しくない。
早川先生と2人で数学の勉強をしたい。
けれど浅野先生が疑っている今、こうするのが正解だろう。
2人で勉強をすることよりも。
私と早川先生の関係を守ることが、最優先だ。
その後、教室に戻る前にスマホを取り出して、早川先生にメッセージを送った。
『おはようございます。登校して早々、浅野先生に呼び出されました。昨日の件でした。疑ってそうだったので、まずは有紗を入部させて下さい。そして浅野先生を有紗の担当として顧問にさせて下さい。あと…部員の募集もしますか。私は不本意ですが、私と先生の関係を守るため仕方のないことだと思います。そもそも、事の発端は早川先生ですけどね~』
「よし」
私は足早に教室へと戻った。