青春は、数学に染まる。 - Second -
買い出し
あまり乗り気では無い修学旅行の日が近付いて来た。
早川先生と一緒に行けるのは楽しみだが、実際旅行先で関われるかと言ったら…そうでも無い。
スキー研修はクラスごとだし。
東京観光は浅野先生とデートをするって言っていたし。
私はどこに楽しみを見出せば良いのだろうか…。
この前の夜、突然先生から電話が掛かってきた。
不安そうなその声に、学校で何かあったんだろうなと察しが付いたが、終始煮え切らない様子の先生。
『真帆さんのお声を聞いたら何だか安心しました。それではまた』
そう言って一方的に電話を切られた。
「……何それ」
先生のことだから。
修学旅行に対して何か不安要素があるのだろう。
「まぁ……察しはつくけれど」
どれだけ先生を見てきたと思っているの。
先生自身が何も言わなくても、不安要素は浅野先生と神崎くんだろう…という結論に辿り着くのは容易だ。
……とかいう私も。
修学旅行での津田さんの動きを警戒している。
スキー研修中…ずっと早川先生の横に居たりして。
「…………」
…はぁ。
だから私も3組が良かった。
もうすぐ2年生も終わると言うのに、まだそんなことを思っている。
「真帆ちゃん?」
「…ん?」
「ん、じゃないわよ!! 私の話聞いてた!?」
「………あぁ、修学旅行には何色の下着を持って行けば良いかって話しよね」
「はぁ!? 一言もそんな話はしてないわ!!!!」
修学旅行前の休日
有紗と2人で家の近くのショッピングセンターに来ていた。
旅行に必要な物の買い出しだ。
「私一言も言っていないのに下着云々ってさぁ…それって真帆が頭の中で考えてるから出てきた言葉よね…! そういうこと、真帆も考えるの?」
「馬鹿なこと言わないで」
考えてないし。
年が明けてから津田さん対策しか考えていない。
「ねぇ、ここだけの話。真帆と先生ってさ、そういうことしたの?」
「………有紗、お口チャックしようか」
「何で? したの!?」
「公共の場で話すことではありません」
「えー、否定しないの!?」
キャッキャとテンションの高い有紗。
まぁ、いつものことだから別に良いけど。
大体そんな話、人にすることでは無い。
それは有紗だって例外では無いよ。
「ところで、あと何を買うんだっけ?」
「えーっと…おやつと、トランプと…携帯用ダンベル!」
「全部いらない物じゃん」
何しに行くつもり?
余計な物を入れて荷物を増やしてどうするのか。
「……あ」
「ん? どうした?」
「ちょっと、そこ見てくる」
歩いていると不思議な雰囲気の店先に、気になる物を見つけた。
「…焼き鳥コーラ…………」
これ、早川先生知っているかな。
私の感覚では考えられない飲み物だが。
何だか先生に飲ませてみたい衝動に駆られる。
「え、真帆…そういうの好きだったっけ?」
「いや、先生に飲ませたくて」
「え………先生こういうの飲むの?」
「あの人、味覚がおかしいから。美味しいって言いながら飲む気がする」
「…それは、褒めているの? 悪口なの?」
私は『焼き鳥コーラ』と隣に置いてあった『めんたいコーラ』を買った。
よく見ると地域限定商品を扱うお店だった。
期間限定でここに出店しているらしい。
「カフェオレのカステラ味を貰ったことがあるんだけど、ただただ甘かった。フルーツポンチサイダーは普通に美味しかった。メロンパンサイダーはね、飲めないことは無いけど、私は好んでは飲まない。そしてこれらの共通点は、めっちゃ甘いってこと」
「先生…普段からおかしいとは思っていたけれど、飲み物もおかしいとは…」
「でもいちごミルクも好き」
「学校ではよく飲んでるよね」
「そうそう。だから私の中ではいちごミルクと言えば早川先生って感じ」
「ていうか、早川先生…早々に糖尿病になる気がしてきた……。真帆、気をつけなきゃ!!」
「お、恐ろしいこと言わないの!」
……何だか、先生の話をしていたら会いたくなってきた。
後で時間があったら先生のところに行ってみようかな。
これを渡すついでに、この前の電話の件を聞き出さなきゃ。
「真帆はあと何買うの?」
「私はほぼ買い揃った」
「え、いつの間に!?」
「ある程度は家にあったからさぁ」
とかいう有紗も、あと買う物がおやつとトランプと携帯用ダンベルって……。それは全部要らない物だから。
必然的に必要なものが揃っているよ?
「あ、そう言えば! 2学期の期末で54点取った件、先生から何かご褒美あった??」
「…………秘密」
「はぁ!? それも言わないわけ!?」
数学で初めて54点を取ることができて凄く嬉しかった。
先生も喜んでくれて、沢山頭を撫でて貰った。
……子供みたいでしょ。
「有紗が期待しているような出来事は何も無いの」
「えぇー、言えないってところがまた怪しい!!」
「ふふふ……」