青春は、数学に染まる。 - Second -
数学の楽しさ
長かった修学旅行が終わり、日常が戻って来た。
日常に戻ったということは…学年末テストがやってくる。
2年生最後のテスト。
頑張らなければ…。
「真帆! 今日は同好会に行けないから、先生たちに伝えといて!」
「うん、分かった。またね」
「じゃーねー!」
修学旅行明け、初の活動。
それなのに、明後日から考査期間に入る。
今日と明日行ったらまた活動ができなくなるのだ。
「そろそろ行こうかな」
鞄を持って教室を出た。
私の通学鞄には、先生とお揃いのストラップにプラスして、修学旅行で買ったハンバーガーの食品サンプルのキーホルダーが付いている。
ハンバーガーは有紗とお揃い。
先生には結局、何も買えなかった。
変な飲み物は…無かった。
数学科準備室の前に着き、いつも通りノックをせずに開けようとしたのだが…寸前で留まる。
部屋の中から、会話をする声が聞こえてきた。
「…………」
小声過ぎて、聞き取れない。
部屋の窓に耳を当て、中の声を聞くことに集中する…。
それでも、ボソボソとしか聞こえなくて、何を言っているのかは全く分からなかった。
暫く廊下に立ち尽くしていると、突然数学科準備室の扉が開いた。
中から飛び出してきた人。
それは…津田さんだった。
「…なんで…」
恐る恐る中を覗く。
そこには、呆然と立ち尽くしている早川先生がいた。
「……………浮気現場?」
私がそう呟くと、先生は体を震わせて目を見開いた。
「あ、藤原さん…。違います、浮気現場って…違います。本当に、違います」
焦っている先生が面白いと感じつつ、胸がモヤモヤする。
2人で、何をしていたのかな。
私は数学科準備室に入り、扉を閉める。
先生は無言で近寄ってきて、私の体を強く抱き締めた。
「……………やっと、できました。触れたくて仕方なかったです」
「……」
そっと私も腕を先生の背中に回す。
少しだけ体が震えているような感じがした。
「…先ほどの津田さんには、再び告白をされました。どうしても好きだと、そういう内容でした」
「……」
「ですが、今回もきちんとお断りをしました。僕が教師だからという以前に、大切な人がいるということをご説明させて頂きました。これで、津田さんは何もないと思います」
「……」
「…あの、何か言ってください」
「……」
先生の背中に回している手に力を入れる。
…駄目だ。
どうしても、優越感が先に来てしまって。
思わず顔がにやけてしまう。
「……先生、好き」
「……………僕の方が、もっと好きです」
久しぶりに聞いたその言葉にまた喜びを感じる。
「先生、好き。大好き」
「…真帆さん、どうしましたか」
「……ここで毎日会って触れていましたから。4日も空くと…会いたくて、話したくて…苦しかったです」
「そうですね。僕も全く同じです。…すみませんでしたね。修学旅行は僕のことを忘れて、高校生として楽しんで下さいと言ったのに…僕から連絡をしたりしてしまいました」
「…いえ、それが嬉しかったです。全然、謝ることではありません」
お互いが強く、強く抱き締め合う。
愛おしくて、大切で。
ずっとそばにいたくてたまらない。
先生のカッターシャツの襟を少し捲ってみる。
私が付けたキスマークは、今もまだ薄く残っていた。