青春は、数学に染まる。 - Second -
「真帆、泣きすぎよ!」
「そういう有紗こそ、何よその目…」
「私は良いの!!」
全然集中できなかった離任式が終わり教室に戻ったが、教室でお別れをする必要のない私たちはそのまま即解散となった。
「藤原さん…」
誰もいなくなった教室。
私と有紗と浅野先生、神崎くんの4人が残っていた。
「藤原さんをこんなに泣かせる人、許せない。だけど、これってチャンスってことだよね?」
「ゴラァ神崎!!! 何言ってんだよお前!!」
「神崎くん抜け駆けはいけないね。僕がいることも忘れないでよ」
「は? 浅野先生も藤原さんのことが好きなの?」
「言ってなかったかな? 僕は君が藤原さんのことを好きなのは知っていたから、勝手にライバル視していたけれど」
始まった。
空気の読めない2人の言い合い。
…こんな時にまで何なの。
早川先生がいなくなることがチャンス?
ふざけるのも大概にして欲しい。
私の気持ちを何も考えずに、好き勝手言うだけ言って…許せない。
「…もう、お願い。本当にお願いだから、これ以上はやめてよ!!!」
「!!」
自分でも驚くくらい、大きな声が出た。
「チャンスなんて無いよ…早川先生がどこに行こうが、私が好きな人は早川先生に変わりない。離れたって私と先生の縁は切れない!! そう思えるくらい一緒に過ごして来たし、転任が決まった後もお互いの思いを擦り合わせ続けてきたのだから!!!」
「真帆…」
「だけど、それでも悲しいの。神崎くんは知っていると思うけど、入学してすぐの頃から補習受けていて…2年間ずっとそうだったから。次3年生なって、その毎日が無くなることが悲しいし、不安で仕方ない。あんなに大嫌いだった数学も補習も、早川先生のおかげで好きになったの!! 私『が』早川先生と一緒に居たい。そう願っているし、この気持ちは早川先生が居なくなっても、何1つ変わらない」
黙り込んでしまった浅野先生と神崎くん。
申し訳ないけれど、今回ばかりは2人を庇えない。
「だからお願い、関わらないで。……さようなら」
「あ、真帆!」
鞄を持って教室から出る。
後ろから慌てて有紗も付いてこようとしたところで、校内放送がかかった。
『2年2組、的場有紗さん。大至急、空手部部室まで』
「あ!! うっわ、やっちゃった…」
空手部の先生とお別れをすると言っていた有紗。
私のことで気を取られて行くのを忘れていた。
「ごめん真帆、後で数学科準備室行くから!」
「うん。こっちこそごめんね」
走って部室に向かう有紗を見送り、私も歩き始める。
浅野先生も神崎くんも、教室に残ったまま付いて来なかった。