青春は、数学に染まる。 - Second -
先生と手を繋ぎ、数学科準備室に入る。
部屋の外には変わらず『数学補習同好会』の看板は掲げられているが、その部屋の中は空っぽだった。
「…寂しいです」
「またすぐに、次の人が埋め尽くしますよ」
「そうでは無くて、ここに先生の物が無いのが寂しいってことです」
手を繋いだまま数学科準備室の窓から外を見る。
私たちが昼休みに過ごしている中庭のベンチが丸見えだ。
そう言えば、ここから私たちを観察していたって言っていたよね。
この景色を見ながらその言葉を思い出し、思わず笑いが零れる。
ガラッ
「ごめーん!! 真帆と先生!! お待たせ!!」
「有紗、お疲れ」
勢いよく開いた扉。
そこから飛び込むように有紗が入ってきた。
「真帆、浅野先生には来るなって言ってきたから大丈夫よ。先生ごめんね、さっき教室で色々あって…」
「…的場さん。僕その時、3組にいました」
「え?」
「真帆さん大声だから、全部聞こえていましたよ」
「え、うそーっ!?」
有紗の反応に自分の顔が赤くなるのが分かる。
恥ずかしいけれど、ある意味聞こえていて良かったのかなとか、ちょっと思った。
早川先生本人に、あんなにストレートな言葉をぶつけることはできない。
正顧問と生徒が揃った数学補習同好会。
副顧問は不在だけど、最後の活動という名の……お別れ会。
というほど大袈裟なことでも無いけれど。
私と有紗で選んだ花束と、修学旅行の時に撮った数学補習同好会4人の集合写真。
それを渡すための会だ。
「お別れ会とか適当に名前付けたけど、どうせ先生と真帆はすぐに会うんでしょ~?」
「その通りです。的場さんとは永遠にさようならですが」
「はぁ!? ほーーーーんとうに何なの、この人!!!!! 真帆もこの人のどこが好きなのか全く理解できないわ!!!!」
「的場さんに僕のことをご理解頂かなくても、真帆さんにだけご理解頂ければ結構です」
「はぁ~~~~~マジで酷い!! 大丈夫、一生理解する気も無い!!!!」
最後まで先生と有紗は相変わらずだ。
思わず頬が緩むが、そんな光景を見るもの最後かと思うと寂しさを覚える。
「…まぁ、的場さん。永遠にさようならは冗談です。また、お会いしましょう。真帆さんのお友達ですから。お会いする機会はいつでもあります」
「…何だ、そういうことも言えるじゃん。これからも真帆のこと頼むよ!!!」
「勿論、的場さんに言われずともそのつもりです」
「な~んか癇に障る言い方だなぁ~~~~」
春。
出会いと別れの季節。
『先生と生徒』として会うのは今日で最後だけど。
裕哉さんと共に過ごす時間はこれからも変わらず続いて行く。
早川先生。
色々あったけれど。
私も、ここで先生に出会えて良かった。
『裕哉さんが描く未来』と『私が描く未来』
どちらの未来にも、今と変わらずにお互いの存在があり続けることを信じて――――。
青春は、数学に染まる。 - Second - 終