【短編】赤金の衣が君色隠す ~一族のために犠牲になれと言われた名家の姉は、金魚のあやかしに溺愛される〜
日葵が呪文を唱え始めると、水中が光り始めた。秘術の始まりの合図だ。
(こんなひどいこと、許されて良いはずがない……!)
水面に浮かんでいた数多の白い椿がゆらりと揺れたかと思うと、茎の切り口から根が飛び出した。
一斉に伸びた根が夢璃の全身に絡みついた瞬間、彼女は司を手放してしまった。
「ぅっ! 司!!」
これまで無気力でいた夢璃は慌てて司に手を伸ばそうとするが、根に囚われて簡単には身動き出来ない。それでも彼女は諦めずに、水に揺られていく司に手を伸ばし続ける。
絡みついた根が夢璃から霊力を吸い上げると、純白の椿は鮮血が滲むように朱に染まっていく。
(このままじゃダメ……!)
霊力を奪われまいと、ついに夢璃が抵抗を始めた。
この先明るい未来など訪れることがないだろうと思っていた夢璃は、死んでも構わなかった。
司が死んでしまったと知ったときも、尚更に生きている意味などこの世に存在しないと思った。
けれども、あやかしから譲り受けた司と共に過ごした日々が否定されることは、彼女には耐えられなかったのだ。
「司との出会いがなかったことにされるのは、嫌……!」
夢璃が沈んでいくだけだった気持ちを定め、霊力を引き出されぬよう強く意識すると、椿の赤く染まる速度が遅くなり始める。
「今更抵抗する気!?」
日葵が金切り声と同時に術を放つ。茨の枝が夢璃の頬に切り傷を作ると、彼女の頬を伝っていた水滴が血をさらい、白装束の刺繍によって描かれた白い椿を朱色に染めていく。
「司……!」
絡みつく根から必死に抵抗し、夢璃は何とか指先で司に触れることが叶った。
「私の霊力、ぜんぶ司にあげる」
(椿に私の霊力が行き渡らなければ、術は失敗するはず……!)
死んでしまった司に霊力をあげたところで、どうにもならないだろう。
「もし生まれ変われたら、私は司と同じ金魚になりたいな」
何も起きないことが分かっていながらも、夢璃は願いを込めて司に霊力を送り込む。
「司も……一緒に生まれ変わってくれる?」
「会いたい」と言う願いを込めて、夢璃が指先で触れる司へ強く強く霊力を注ぎ込むと、司はいつもよりも強く光り始めた。
夢璃の強い霊力に抵抗され、白と赤のまばら模様を描いた椿が流されるように水面をくるくると踊り始める。
その様子は、まるで数多の金魚達が踊る中で、赤金色に輝く金魚に夢璃が祈りを捧げるようにも見えた。
「司と一緒にいたいから……!」
頬を伝う涙が、水面に波紋を作る。術の余波か、それとも夢璃の涙が触れたのか。司の胸びれがピクリと動いたと思うと、辺りが眩い光に包まれた。
(こんなひどいこと、許されて良いはずがない……!)
水面に浮かんでいた数多の白い椿がゆらりと揺れたかと思うと、茎の切り口から根が飛び出した。
一斉に伸びた根が夢璃の全身に絡みついた瞬間、彼女は司を手放してしまった。
「ぅっ! 司!!」
これまで無気力でいた夢璃は慌てて司に手を伸ばそうとするが、根に囚われて簡単には身動き出来ない。それでも彼女は諦めずに、水に揺られていく司に手を伸ばし続ける。
絡みついた根が夢璃から霊力を吸い上げると、純白の椿は鮮血が滲むように朱に染まっていく。
(このままじゃダメ……!)
霊力を奪われまいと、ついに夢璃が抵抗を始めた。
この先明るい未来など訪れることがないだろうと思っていた夢璃は、死んでも構わなかった。
司が死んでしまったと知ったときも、尚更に生きている意味などこの世に存在しないと思った。
けれども、あやかしから譲り受けた司と共に過ごした日々が否定されることは、彼女には耐えられなかったのだ。
「司との出会いがなかったことにされるのは、嫌……!」
夢璃が沈んでいくだけだった気持ちを定め、霊力を引き出されぬよう強く意識すると、椿の赤く染まる速度が遅くなり始める。
「今更抵抗する気!?」
日葵が金切り声と同時に術を放つ。茨の枝が夢璃の頬に切り傷を作ると、彼女の頬を伝っていた水滴が血をさらい、白装束の刺繍によって描かれた白い椿を朱色に染めていく。
「司……!」
絡みつく根から必死に抵抗し、夢璃は何とか指先で司に触れることが叶った。
「私の霊力、ぜんぶ司にあげる」
(椿に私の霊力が行き渡らなければ、術は失敗するはず……!)
死んでしまった司に霊力をあげたところで、どうにもならないだろう。
「もし生まれ変われたら、私は司と同じ金魚になりたいな」
何も起きないことが分かっていながらも、夢璃は願いを込めて司に霊力を送り込む。
「司も……一緒に生まれ変わってくれる?」
「会いたい」と言う願いを込めて、夢璃が指先で触れる司へ強く強く霊力を注ぎ込むと、司はいつもよりも強く光り始めた。
夢璃の強い霊力に抵抗され、白と赤のまばら模様を描いた椿が流されるように水面をくるくると踊り始める。
その様子は、まるで数多の金魚達が踊る中で、赤金色に輝く金魚に夢璃が祈りを捧げるようにも見えた。
「司と一緒にいたいから……!」
頬を伝う涙が、水面に波紋を作る。術の余波か、それとも夢璃の涙が触れたのか。司の胸びれがピクリと動いたと思うと、辺りが眩い光に包まれた。