【短編】赤金の衣が君色隠す ~一族のために犠牲になれと言われた名家の姉は、金魚のあやかしに溺愛される〜
「そ、そうだ。司に霊力をあげないとね」
『……平気だよ。妹のせいで疲れているでしょう?』
「でも……司は霊力をあげないと死んじゃうから……」
『一日くらいもらわなくたって、なんてことはないのに』
「でも、司がいなくなるのが怖くて……」
『安心して。ぼくは夢璃が小さい頃からずっと霊力をもらっているから、やわな事じゃ死なないよ。普通の金魚と違うんだから』
「それでも怖いの。司がいなくなったら、私は生きる意味なんてなくなってしまうから……」
『……夢璃』
「勝手に司を理由にして、ごめんね……」
『……ううん。夢璃が一緒に生きてくれるなら、ぼくはそれでいいよ』

 頷いた夢璃が金魚鉢に両手を翳し、瞼を閉じる。すると、金魚鉢の水中で泳ぐ司が、淡く光り始めた。夢璃の霊力が司に注ぎ込まれた証拠だ。

「司の鱗、いつ見ても綺麗だね」

 赤金色の鱗に光が反射するたびに、夢璃が焦がれるように呟く。

『夢璃がいつも霊力をくれるお陰だよ。ぼくも夢璃に、いつか同じ色の服を着させてあげたいな』
「私には似合わないよ」
『ぼくが見てみたいの! ぼくとお揃いの夢璃の姿』
「……いつか、出来たらね」

 なおも霊力付与を続けようとする夢璃を気遣い、司が不安そうに声をかける。

『……もう充分だよ、夢璃。無理しないで』

 こんな量で良いのかと不安そうにしながらも、司を不安にさせてはいけないと思い、夢璃は霊力を注ぐのを終えた。

「司、ずっと一緒にいてね。私の家族は、司だけだから」
『うん。ぼくの家族も夢璃だけだよ』

 ひとりと一匹は、再び金魚鉢のガラス越しに触れあう。

『ぼくに力があれば……人型だったら、夢璃を連れ出してあげられるのに……』
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