陰陽現代事情
 一方、日本から中国に移住し、壮大なプロジェクトを進めようとしていた人物がいた。安倍益材(あべ ますき)。彼は、日本における新国家の樹立を構想していた。画一社会たる日本を多様化するためには、国家を分裂させるべきだという結論に達したのだ。
 安倍はかつて、日本の中に国境が引かれることは、絶対あってはならないと考えていた。国境があるから戦争が引き起こされるというのが彼の持論であり、国境が引かれることで新たな国が誕生すれば、それはこの地域の不安定化につながると見ていたのだ。
 だが、安倍は気付いたのだった。国境が存在しないせいで日本社会は画一化してしまった。本末転倒だった。安倍は自らの論理が民主主義にとって害悪になっていることを痛感し、こうして路線を変更した。現在は、中国各地から有志の若者を集めて、相当規模な組織を運営するに至った。安倍が日本において、描き続けてきたシナリオを実践に移すのは、時間の問題だった。

 津宵恩奈、蘆屋道満、安倍益材・・・・。今でこそ全く関わりの無い、アカの他人である。しかし、かつてこの三人は、同じ思想を共有する者同士として、行動を共にしてきたのである。彼らはかつて左上位(ひだりじょうい)と呼ばれてきた。呪術を使う政治活動家として恐れられ、警戒されてきた。彼らの思想から、マスコミでは左翼と同一視されてきた。だがこの連中は、根本的に左翼とは似て非であった。その独特の思考回路は、社会の多様性と対等性を真っ向から否定するものに他ならず、民主主義を啓蒙する活動家としては程遠いものだったのだ。
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