陰陽現代事情
 晴明は運動会での体力の消耗と、父親の戯言に疲れ果て、憂鬱な気分で家に戻った。家に戻っても誰もいない。父親は左上位の活動に明け暮れ、稼ぎはない。母親はその穴埋めのため、働きに出ている。晴明はテレビをつけた。
 テレビのワイドショーは連日、左上位の特集を組んでいた。“日本の夜明け”などと称して左上位を持ち上げている。左上位の活動をきっかけに女性の社会進出が促進され、価値観の多様化も進むだろうと予測している。
 晴明にはとてもそう思えなかった。
「父さんの歪んだ考え方で、そんなに簡単に世の中がよくなるものか!」
 晴明は、父親がカメラに向かってピースサインをする映像を睨みつけた。
 晴明は玄関を出て、郵便受けをのぞいた。そこには一色刷りのビラが入れ込まれていた。
ビラには「民衆の敵」と題して、左上位の愚行がズラリと羅列してある。国会での妨害行為、企業での業務妨害、今日のような小学校への乱入、そして傷害行為・・・・。伝統的な価値観をひっくり返せば民主主義になるという、短絡的な思考回路も指摘されていた。その下には左上位のメンバーの名前と顔写真が載せられていた。一番下には、左上位にはくれぐれも警戒するよう呼びかける一文が書かれていた。
 どこの自治体か政党が配ったのかは書かれていなかったが、左上位の活動を警戒する人たちも数知れないことを、そのビラは示していた。
「父さん・・・・これじゃ、犯罪者だよ・・・・」
 晴明は、そのビラを見ながら、涙をこぼした。
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