陰陽現代事情
 一方、丸の内のオフィスビルにある商事会社では、受注が増え、社員が対応に大わらわだった。残業も午後十時はざらで、ときに日にちをまたいで仕事が続けられることもあった。
 そこへ、新しい顧客がやってきた。
「社長、お客さんですが・・・・“ヒダリジョーイ”って方なんですけど、ご存知ですか?」
「ヒダリジョーイ・・・・さあ?とりあえず上がってもらってくれ」
 ドン!ドン!ドン!
「ナーマケーるコトはー、ビートーク!!」
「うわぁっ!!」
 変な格好をした奴らが、ドアをつき破って進入してきた。
 例のチンドン屋だ。
 連中は、オフィスの書類を無造作に放り投げ、散らかしながら歩き回っていた。
「ニッポンジンはーハータラーき過ーぎだー!!」
「ジタンしろ!!ジタンしろ!!」
 チンドン屋の連れの奴らが口々に叫ぶ。そしてデスクで業務をしている社員に対して埃を立てるなどのイヤガラセを繰り返していた。
「何するんだー!!」
 社員の一人が怒鳴りたてた。
 するとチンドン屋はこの社員の怒鳴って開けた口にめがけて丸めた書類をぶち込んだ。
 この社員は失神して倒れ込んだ。
「キミたち、いったい何をするつもりなのかね!!」
 騒然とするオフィスに、社長が駆け込んできて、止めに入った。
「お前が社長かー!男は出て行けー!女を採用しろー!!」
 チンドン屋の一味の女が、わめきながら社長を押し倒した。
 社員たちは、チンドン屋に追われるようにしてオフィスから逃げ出していた。
「ナーマケーるコトはー、ビートーク!!」ドン!ドン!ドン!
「ナーマケーるコトはー、ビートーク!!」ドン!ドン!ドン!・・・・
 オフィスでは、チンドン屋が踊り狂っている物声がまだ響いていた。
< 8 / 44 >

この作品をシェア

pagetop