婚前どころか、フリですが ~年下御曹司?と秘密の溺甘同居~
「聞いたよ。 北条翔くん。 うちの会社の未来の社長。御曹司なのは分かってたけど、さすがに規模が大きすぎてびっくりしたんだから」
「…黙ってて、すみませんでした」
「なんで言ってくれなかったの?」

翔くんは言おうか迷っているようだった。間を置いて、言葉を選んで口を開く。

「…もう少し時間をかけて俺のことを知ってもらえたら、言うつもりでした。最初から俺が北条だって分かってたら、小春さん、居酒屋にも付き合ってくれないと思って」

それはたしかに翔くんの思惑通り。彼が北条家の御曹司だと知っていたら、彼と深く付き合うようなことはしなかったと自分でも思う。彼はいずれベリが丘のトップに立つ人間で、立場を弁えればそれを分かっていながらサシ飲みなんて。

「でも、時間をかけていられなくなった。栞との結婚の話は白紙になったけど、俺の出世を早めることが条件だと父に言われました。そうなれば広報部は去らなければならないし、傍にもいられない。忙しさに追われている間、俺に気持ちのない小春さんを拘束することなんてできません」

やっと分かった、翔くんの気持ち。また私のことを考えて、自分から身を引いたんだね。

「ほんとは今すぐ俺と結婚して、将来的には社長夫人になって俺と会社一緒に守ってくださいってプロポーズしたかったんですけどね。小春さんは俺のこと好きじゃないし、でも小春さんのことだからきっと、真剣に考えてくれちゃうんだろうなって」

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