婚前どころか、フリですが ~年下御曹司?と秘密の溺甘同居~
翔くんは眉を下げて困ったように笑う。もうそんなふうに、強がりの笑顔になんかさせない。あなたの抱えているものの重みを全て分かるのは難しいけれど、共有して一緒に持てば少しは楽になるでしょう。そういうことが出来る存在でいたい。翔くんのいちばん近くで彼を支えたい。

「たしかに私、もし翔くんにそんなプロポーズされてたら、私社長の奥さんなんて大役果たせないどうしよーってなってたと思う」

今度は私の番だ。今それを伝える番。

「でもね、そんなことより、翔くんのそばにいたい。あなたと毎日楽しく笑って過ごしたい。それで翔くんが辛い時は、私の前でだけは無理して笑わなくていい。あなたが背負っているものはあまりに大きくて、到底私に理解出来るものじゃないと思う。私にできるのは、大人ぶって翔くんの決めたことだからって逃げるんじゃなくて、翔くんが感じてるプレッシャーとか苦しいこととか辛いことに、全部一緒に向き合うこと」

「小春さん、」

「翔くん、好き。あなたが好きです。 真っ直ぐで強くて優しいあなたが、泣きたい時に泣ける場所でありたいの」

桜の花びらがふわりと翔くんの髪にひっかかる。彼はみるみるうちに瞳に水気を含み、堪えるように目に力を込める。

「俺は例外になれたんですか? 年下だけど、恋愛対象になった?」
「そうだね。 翔くんだけ、特別」
「やばいです…泣きそうです…」
「もうほぼ泣いてるじゃん。ていうか、泣いていいんだってば」
「これは嬉し涙なのでノーカウントです…!」

涙声で翔くんは謎の抵抗をする。

「ええ、何のカウント?」

必死に涙を流すまいと唇を引き結ぶ表情が子どもみたいでおかしくて、こんなにも愛おしい。

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