婚前どころか、フリですが ~年下御曹司?と秘密の溺甘同居~
そんなにまっすぐはっきり、急に口に出そうなんて心臓がもたない。翔くんは肩を押して体との間に距離をとり、視線を合わせる。

「俺と結婚してくれますか?」
「けっ、は、はい、その覚悟はできてます!」

彼の胸に飛び込んで、受け止めてくれたその先は、普通の恋。普通だけど、簡単にはいかない恋になるだろう。彼とずっと一緒にいるために覚悟はしている。

「キスしてもいいですか」
「きっ、キス!? こんな所だし、人が見てるかもしれないから、それはちょっと待っ…――んっ」

でもさすがにそれはついていけない…!なんて思った時には唇が重なっていた。キス未遂とおでこにされたのを経て、今初めてちゃんと触れた。しっかりと感じるそれは、とても優しくて長いキス。

「待ってって言ったのに…」
「ごめんなさい。でも、俺、めちゃめちゃ待ちました」
「うん。お待たせしてごめんね?」

彼を見上げて微笑むと、翔くんの顔がぶわあっと赤くなる。

「ほ、ほんとですよ、危うく小春さんのこと諦めるところだったんですからね」

耳まで赤くして、彼は顔を逸らしてしまった。
なんだかこっちまで恥ずかしく……。そこでふと我に返った。現在9時30分。本来ならオフィスで仕事中のこの時間。

「どうしよう…恥ずかしすぎて会社戻れない〜!」

皆に背中を押されて飛び出してきて、どんな顔で…!

「一緒に行きましょうか?」
「もっとダメでしょ!?」

翔くんてば他人事だと思って! いや、彼は本気で言っているのかも…。
桜並木の下、私を見下ろす瞳には彼らしい強気な色が戻っていた。




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