婚前どころか、フリですが ~年下御曹司?と秘密の溺甘同居~
7、望んだ日常





4月も半ば、オフィスは新年度が始まりこの時期特有の独特の雰囲気に包まれていた。新しい空気にどことなく落ち着かない季節だ。翔くんは広報部を去り、新卒の女の子が一人加わって新体制になった。指導係は菫。真面目で仕事熱心ないい子だと思う。肩の力が抜けてくれば慣れるのも早いだろうと菫が言っていた。
翔くんは社長補佐としてこの建物のトップを奔走している。そしてそんな翔くんには恋人がいて、それが広報部の先輩らしい…という噂が社内で瞬く間に広まった。菫は、「いっそ自分から名乗り出ちゃったら?」と若干面白がっている節がある。

翔くんと晴れて本物の恋人どうしになった。会社で顔を合わせることはなくなり、私はマンション暮らしのままのため会う時間は以前より格段に減った。だから本当はすぐにでも翔くんの家に帰りたい気持ちもある。けれど、その前にお互いの家族に私たちのことを話す必要があるだろう。
北条の社長は翔くんが早々に身を固めることを望んでいて、ひいては将来会社を担っていく後継者の嫁には政略的な役割を与えられている。栞さんの時がそうだ。私はあとから、彼女は北条家が懇意にしている葉山不動産のご令嬢だと知った。一方私は、名声の衰えた一般家庭で育ったいわば北条家にはなんの利益もない人間。彼のご家族に認めてもらうには、私という人間が少なからず翔くんの成長に貢献できると示さなければならないと考えた。
朝のオフィス、窓際でカフェオレを飲み終えても翔くんが顔を出さなくなったことに寂しさを募らせつつ、仕事に入ろうと踵を返した時。スマホが短く通知を知らせた。

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