婚前どころか、フリですが ~年下御曹司?と秘密の溺甘同居~
父は神妙そうに言う。遠回しに、お前みたいな若造で大丈夫なんだろうなって言ってるようにしか……

「僕といることで、小春さんにはたくさん苦労をさせてしまうと思います。まだまだ会社を背負うには未熟で至らない点も多くありますし、将来社長になれたとしても全てが上手くいくとは限りません」

偽りなく真剣に紡がれる言葉に、彼の後継者としての覚悟や意識をひしひしと感じとる。そこに私の人生が交わること、翔くんはその重みをよく分かってくれている。

「ですが不幸にはしません。 僕が進む道に娘さんを巻き込むからには、生涯かけて必ず幸せにします」

父は表情を崩さない。

「いいじゃない。私は応援するわ」

しんと貼り詰めかけた空気を裂いたのは、母の呑気な声だ。

「私たちの娘のために、ここまで言ってくれているのよ。ふたりの選んだ人生だもの。信じて任せるのが私たちの役目でしょうよ」
「お母さん…」

普段おっとりしている母が言うと余計に頼もしい。なにか大きなことがあった時、父を引き込んで丸く収めてくれるのはいつも母だった。

「遥太もそう思うでしょ?」
「…俺は別に、姉ちゃんがいいならいい」

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