婚前どころか、フリですが ~年下御曹司?と秘密の溺甘同居~
有益…。得とか損とか、利益不利益とか、私も前はいろいろ考えていた。ベリが丘を統べる大企業の後継者の伴侶になるには、私はあまりにも平凡だったから。でも、そんなことは重要ではなくて。彼がほしいのは安らげる場所で、家に帰ると好きな人がいるという平凡な日常なのだ。翔くんはいつもそれを愛情にして表現してくれる。だからいつしか考えなくなっていた。翔くんは家のために尽くしてくれる相手を求めていない。私という人間を、もう二年も想い続けているのだ。

「私は、後継者として重圧に耐えているであろう彼の心が休まる場所であろうと思っています。 利益でしか自分の価値を示すことができないあなたに彼は渡しません」

山本さんが愛しているのは翔くんではなく、彼の持つ背景なのではないだろうか。約束された財産や地位や名声。そこに翔くんの意思は存在しない。
山本さんは顔を歪めてバツが悪そうにする。

「上手くいかないからって彼や彼の周りの人間に何かしたら、私が許しませんから。もちろん、翔も黙ってはいないでしょうね」

少しは効いただろうか。人生でいちばん低い声を出したかもしれない。私は頑として山本さんと対峙する。

「あなたがそう思っていても、北条さんはきっと目を覚まします。 私の方が自分にふさわしいと!」

これは宣戦布告?ああ、ベタな展開だ。
山本さんは言い捨てるようにして建物の中に戻っていった。ぽつんとデッキに残された私は深くため息をついた。
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