婚前どころか、フリですが ~年下御曹司?と秘密の溺甘同居~

その日は翔くんと会うことになっていて、夜、彼とBCストリート沿いにあるお店に来ていた。

「小春さん、元気ないですね。 なにかありましたか?」

気遣うような視線に、私は慌てて否定する。

「なんでもないよ。 ちょっと疲れたみたい。ごめんね」
「今日は家に寄らずに早めに帰りましょう」

心配かけてしまった。翔くんは優しい。山本さんとのことを彼に話したら、私のために怒るだろうし心を痛めるだろう。仕事上の関係にも支障が出るかもしれない。実害が出たりしたら相談しよう。でも一つだけ確認したい。

「翔くん、最近も会社の子に声かけられる?」
「…はい。基本相手にしないようにしてるんですけど、仕事の話だと言われると断ることもできなくて」
「そっか。 必要だったら私のことも言っていいからね」
「ありがとうございます。でも今はまだ、なるべく小春さんのことは話さずにいたいです。 残念なことに中には良識に欠ける人間もいますし、あなたに危害を加えようとするかもしれない。小春さんも、何かあったら遠慮なく言ってくださいね」
「うん。ありがとう」

私をマンションまで送ると、私が窓から手を振るまで見届けて帰っていく。翔くんが他の人を好きになるなんて考えられない。こんなにも大事にされていて、何を不安に思うことがあるのか。


< 124 / 130 >

この作品をシェア

pagetop