婚前どころか、フリですが ~年下御曹司?と秘密の溺甘同居~
「小春さん」

スマホをポケットにしまい、夏樹くんが私を見つめる。
あ、彼が今言おうとしていること、想像つくかも。

「俺の家に来てください。マンションに戻るのは危険です」
「待ってね、夏樹くん。 私、その話を断ろうと思ってここに呼んだの」

やっぱり、私が不安がるのを見越して彼は昨日の話を持ち出した。でも、ここでまんまと乗るつもりもない。

「知ってます。 小春さん、午前中ずっと思い詰めたような顔してたし、俺振られるんだろうなって思ってました」

真顔であっさりと言われ、驚いて言葉が出ない。そんなに顔に出ていたなんて。

「そうだよ。夏樹くんの恋人のフリはできない。だから、同居もしない」
「嫌です。 俺の知らないところであなたに何かあったらと思うと、怖くて眠れません!」

それは困るなぁ。夜はしっかり寝ないと。ていうか…嫌ですって、正直か。

「俺、小春さんのこと諦めませんから。 絶対俺のことを好きにさせます。 〝まだ〟好きじゃないのが問題なら、それで解決です」
「解決って、そんな簡単に…!」
「簡単です。 小春さんは俺のこと、好きになります」

私をじっと見据える彼の瞳は、若者らしくぎらぎらと燃えていた。私ははぁとため息がこぼれる。譲らない夏樹くんの態度に、呆れ半分、恐れ戦いている。

「…どこからくるの、その自信は」
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