婚前どころか、フリですが ~年下御曹司?と秘密の溺甘同居~
「そうだ、翔くん。 私たちが一緒に住むこと、なるべく内緒にしておいた方がいいよね? 後のことを考えても、」

私の親に挨拶をするのとは話が違う。いずれは終わるのだから、わざわざ話さないほうが後々楽だと思うんだけど…。

「そうですね。 そうしましょう」

あれ、意外。翔くんは逆に色んな人に言って外堀を埋めよう…なんて考えているかもって思ってた。私は自分で言っておいて驚いているのが顔に出ていたのだと思う。

「小春さんが彼女になって一緒に住むことになりましたって、報告して回りたいって言うと思ったでしょ」

あっさり見抜かれて、私は小さくなる。

「まぁ、正直それもアリかなって思ってました。 でも、まずは俺のこと好きになってもらうほうが先かなって」

翔くんの瞳に吸い込まれそう。にっといたずらっぽく笑うから、その破壊力にお箸を取り落としそうになった。
どうして、そんなにまっすぐなのだろう。ただの可愛い後輩のはずなのに、目の前にいるのはそうじゃない。私を好きで、それを怖いくらい直球で伝えてくる。そんなのは、ただの後輩がすることじゃないから。

「私は、翔くんとは付き合えないよ」

私は翔くんを、恋愛対象として見ていない。見たことがなかった。弟みたいだと思ってた。でも、翔くんは本気だ。それを今更実感している。
安心したくて、絆されて、勝手に母親と重ねてまた安心して。寝起きの頭がすっきりすると、やっぱり同居に応じたのは良くないことだったのではと思い出す。

「今は、それでいいです。 小春さんが俺の作った朝ごはんを食べているってだけで、信じられないくらい幸せです」

私を映すどこまでも真摯な瞳を、私は見ることができなかった。


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