婚前どころか、フリですが ~年下御曹司?と秘密の溺甘同居~
「小春さん、ラグ・ア・カルムのリスティング広告のことで分からないところがあって。教えてもらえますか?」

カフェラテを飲み終えたころ、夏樹くんが真剣な顔でデスクから私を見あげる。
私へのアプローチは欠かさないけれど、仕事熱心でもあるから誰も口を出さないんだと思う。仕事の覚えは早いし作業も効率的でかつ豊富なアイディアも持っている。手腕は広報部の人間なら誰もが認めているだろう。

「うん。じゃあまずそれからやろうか。どの辺が分からない?」

社員も揃い仕事が始まる。夏樹くんと私で今抱えているのは、会員制オーベルジュ、ラグ・ア・カルムの広告案件。こちらはべりが丘トップの権力を誇る橘グループとの共同業務だ。現在進行形で業績が右肩上がりの大企業との仕事とあって、私も慎重に取り組んでいる。夏樹くんは私の補佐的な役割をしてくれていて、作業の効率化を図るのが上手い彼の存在はとても助かっている。

ベリが丘タウンのビジネスエリア、中央にそびえ立つツインタワー。

ベリが丘全体の景観及び治安を維持するためのセキュリティシステムなどを各部署に分かれて一括して担う、いわば司令塔のような組織だ。
守衛がいる高級住宅街の管理棟とも繋がっていて、守衛も管理棟もツインタワーの統括になる。
だからセキュリティは厳重で、身元がしっかりしていてベリが丘に関わる古くからの名家の生まれか、街の外から引き抜かれた優秀な人材が集まるこのオフィスは、エリート集団とも呼ばれたりする。
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