婚前どころか、フリですが ~年下御曹司?と秘密の溺甘同居~
PCの電源を落とし、ちらりと隣を見ると夏樹くんも終わってもうコートを羽織っていた。
「お疲れさま。 私も支度するから、少しだけ待っててね」
「はい。ゆっくりで大丈夫ですよ」
言いながら、ちょっとソワソワしてる夏樹くんは正直言って…かわいい。
私も絆されてるなぁ、まっすぐ純粋な彼に。
なんかこう、弟の小さい頃を思い出すんだよね。今はもう大男に育ってつんつんしてるけど、昔は姉ちゃん、姉ちゃん、って後をくっついて回って。
可愛かったなぁ。
「よし。お待たせ。行こっか」
まだ疎らに人が残るオフィスに声をかけつつふたりで会社を出る。
菫が奥の方からニヤニヤしてこっちを見ていたけど、本当にサシで飲むだけなのに何を期待しているのやら。
今この時間は、先輩後輩。そうやって一線引いてくれている夏樹くんに失礼なんだから。
ツインタワーから徒歩10分ほど。駅前にあるこじんまりとした居酒屋さんが、私たちのいつもの場所だ。すっかり常連になってしまって、店員さんはだいたい同じ席に案内してくれる。
お店の奥のカウンター2席。仕事終わりのこの時間、私たちは他愛のない会話とお酒を楽しむ。夏樹くんが仕事の相談をする時もあれば、私の話もたまに。前に弟の話をした時、つい夏樹くんは弟に似ている、と言ってしまった時は、ちょっと不貞腐れていて面白かった。
今日も、少し仕事を忘れて夏樹くんといつも通りの会話。彼は話が上手くて聞いていて面白いし、話を聞くのも上手だからついついいろいろ話したくなっちゃうんだよね。
しかも彼は宣言通りここでは好意を醸し出さないから、普通に楽しんでしまう。