婚前どころか、フリですが ~年下御曹司?と秘密の溺甘同居~
ハキハキと紡がれるけど、表情は柔らかい。翔くんに、許嫁は同い年だと聞いたことがあるから彼女にとっても私は年上にあたるわけだ。でも、なんとなく、私よりしっかりしてそうな美女を呼び捨てするのは気が引けるから…

「好きに呼んで大丈夫で…だよ、栞さん」

うん、これが精一杯です。栞さんは私のぎこちない答えに一瞬ぽかんとして、それから微笑んだ。その美しさといったら息を飲むほどだからうっかり惚れそうになる。

「小春さん、まず最初にお伝えしたいことがあります。 私は翔と結婚するつもりはありません。会社の同僚に…好きな人がいるんです。 だから私のことは気にしないでください」

ちょっと待って、一旦整理しよう。えーっと、栞さんは翔くんが私のことを好きだと知っていて、一緒に住んでいるのも知ってる。でも私たちは付き合ってないことも分かってるだろうし、それでこう言ってるってことは……私が翔くんと付き合わないのは栞さんがいるからだと思ってる?

「栞さん、あのね。 私は翔くんに許嫁がいてもいなくても、彼と付き合う気はないの」

翔くん以外の人にはっきりと言うのは初めてだ。少しだけ胸がざわざわする。私は翔くんとは付き合わない。それはずっと変わらないのに。

「じゃあ、小春さんは翔のことが好きなわけではないんですね!」

途端、栞さんの表情がぱっと明るくなった。

「やっぱり翔なんかに小春さんはもったいないと思ってたんです。 小春さんのことは翔から一度話を聞いたのと、この前エレベーターで会ったのと、たった今だけのお付き合いですが、可愛くて優しくて、翔が好きになるのも納得です。でもだから、小春さんの相手が翔なのは気に入りません」

それ、普通逆じゃないのかな? 仮にも許嫁への評価が低すぎない?

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