婚前どころか、フリですが ~年下御曹司?と秘密の溺甘同居~
明らかに乗り気じゃない私に部長が慌てる。

「いやわかる! わかるよ、気持ちは。 面倒なんだよなぁ、金持ちの集いってのは。より良い街を作っていこうったって、実際はバチバチにライバル関係にある企業もあるわけだしさぁ。そんな腹の探り合いみたいなの、俺も嫌いだよ。 でもなぁ、こればっかりは断りようがないの、分かってくれるだろー? まあ夏樹にとってもいい機会だとは思うし。俺も強制参加でいるからさ、な、3人で頑張ろう」

困り顔で言われてしまっては、頷くしかない。もとより部長に話を受けている時点で私の参加はほぼ確定事項なのだけれど。
この人の、こちらの気持ちを分かってくれている感じ。親近感というか、普段の仕事ぶりからしても彼は上司として信頼できるし、私たち部下にも優しい。ちょっと緩くて、でもやる時はやるという引き締まった仕事をするから、憎めないし着いていきたいとも思うのだ。

「分かりました。 準備を進めます」
「先輩の足を引っ張らないよう、誠心誠意努めます」

隣で翔くんがきりりと返事をした。


そこからはとにかく忙しかった。抱えている案件の第1優先はパーティー関連のものになり、翔くんにも仕事を振りながら着々と準備を進めていく。当日は要人という要人が集まることから、ツインタワーに最低限人数を残して警備課をほぼ総動員の万全の警戒態勢を敷くことになる。その件で警備課や、営業部との広報業務のやり取り。会場では各企業のブースを設けることが決まったため、それぞれとも連携をとった。

ここでもやっぱり仕事のできすぎる翔くんの手は偉大で、本当に助けられた。部長や他の同僚も手伝ってくれたけれど、彼がいなかったらもっと時間がかかっていたしテンパっていたと思う。

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