婚前どころか、フリですが ~年下御曹司?と秘密の溺甘同居~
そうして迎えたパーティー前日。明日に備えて私と翔くんは定時より前の帰宅を勧められ、激務続きだったこともあり有難くお言葉に甘えた。

翔くんとは同じ家に帰るので、会社を出たところで一旦別れる。帰宅時間が被る時、彼はいつも私を先に帰して、コンビニや本屋で時間を潰している。

「じゃあね、夏樹くん。 お疲れさま」
「お疲れさまです、先輩」

もっともらしい挨拶を交わして淡々と背を向けようとした時だ。

「翔」

低く響く声が翔くんを呼び止めた。思わず私も足を止めると、彼の背中越しに長身でしっかりした体躯の男性がこちらを見据えていた。髭が生えていてダンディなその人は、一歩翔くんに近づく。翔くんの背中が、分かりやすく強ばるのが分かる。ぴりりとした空気を引き裂くように、翔くんも男性に負けず劣らずの低い声で応じる。

「…父さん」

< 64 / 130 >

この作品をシェア

pagetop