婚前どころか、フリですが ~年下御曹司?と秘密の溺甘同居~



パーティー当日は会場となるホテルに直行することになっている。街の中枢が一挙に集まる場に相応しいホテルといえば、栞さんとランチをしたラグジュアリーホテルだ。この短期間にまた訪れることになるなんて…。今回は仕事だけど。

エントランスに立っている警備課の黒服に関係者の証明書を見せてホテルに入る。要人たちが来訪する前に私たちツインタワーのスタッフは最終チェックだ。企業ブースの設営、安全面、一日の流れの確認。全て終える頃には、パーティーの開始時刻が1時間後に迫っていた。

「小春さん、ちょっと休憩しませんか」

翔くんが提案する。もうだいぶ動き回った気分だけど、本番はこれからだ。他部署のメンバーも談笑をしたりと和やかだし、休憩も大事だよね。私は翔くんと簡易的な休憩スペースに移動した。
自販機でコーヒーをふたつ買って、片方を翔くんに手渡す。
高級ディナーは払わせてくれないくせに財布を取り出そうとするのを制して、ふたりで並んでベンチに腰掛けた。
社員で賑わうホールとは少し離れたここは、静かで気持ちが落ち着く。

「部長、張り切ってましたね。 さっき今夜の打ち上げはどこでしようかって、営業部長と警備課長と盛り上がってました」
「今日のために、準備が大変だったからね。特に部長陣は気を張っていただろうし。 明日も平日だけど、打ち上げってなると何次会まであるんだろ」

翔くんの抑えられた笑い声が木霊する。

「遅くなりそうだから、今夜は一緒に帰ります。 皆お酒に無中で、俺たちが同時に抜けたところで気にも留めませんよ」
「はーい。 って、まだ始まってもないのに気が早すぎ。部長も夏樹くんも」

会社の人がいるかもしれないから、ホテルの中では一応先輩モードだ。

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