婚前どころか、フリですが ~年下御曹司?と秘密の溺甘同居~
「俺の、彼女になってくれませんか」

100%…下心…とは言っていたけど、これはいつもの告白とは違う。なんとなくそう思って、黙って続きを待つ。

「結婚を前提に付き合っている恋人……の、フリをしてほしいんです」

…なるほど、そう来たか。恋人のフリ…。いつもと雰囲気が違うのはこういうことか……って、どういうこと…?

「ふ、フリ…? 私が、夏樹くんの彼女…? な、なんで…?」
「実は…――」

……夏樹くんの話を整理すると、つまり彼には許嫁がいるらしい。許嫁って、この時代にまたそんな古風な…とこれだけでもびっくりだ。とはいえ幼い頃に勝手に決められた形だけの関係らしく、今までは特に何のアクションも起こらなかったそう。
それが最近になって、結婚を唆されるようになり今恋人がいないならと外堀を埋められそうで、いよいよ後がない、と……。

「結婚、したくないの?」

「当たり前じゃないですか! 俺は小春さんが好きなんです。他の人と一緒になるなんて有り得ません。 でも、まさか今になって許嫁の話が出てくるなんて思ってなくて…油断してました」

夏樹くんの勢いに押されて口をつぐみそうになる。でも、

「気持ちは嬉しいよ。 でもね、前から言ってるけど、私は夏樹くんとは付き合えな…」
「なんでですか? 俺が年下で、弟にしか見えないからですか?」

もしかしなくても根に持っているらしい。弟に似てるなんて、本人に言ったのはまずかったな。

「俺、小春さんの弟じゃないです。 弟は小春さんの彼氏になりたいなんて思わないし、帰りに家まで送る時、手を繋ぎたいとも思いません」
「…だからだよ。夏樹くんは私を好きって言ってくれるけど、私は夏樹くんに同じ気持ちを返せない。だからこそ、恋人のフリなんて、私じゃダメだと思う」

そんなの、夏樹くんが傷つくだけじゃないのかな。思わせぶりになってしまうなら、そんなの絶対、フリでも恋人なんてダメだ。
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