婚前どころか、フリですが ~年下御曹司?と秘密の溺甘同居~
「立て。 人質がいれば、あいつらも顔を出すかもしれない」

なんの話かは分からない。こんな所にわざわざ侵入するにはそれなりの目的がありそうだが、今私はその男に人質に取られそうになっている。

「待て。 人質なら私が行く。妻と、この子だけはどうか助けてくれ」

割って入ったのは老夫婦のご主人の方だ。私を庇うために立ち上がる。

「そんな、駄目で――」
「あなたはこっちへ来なさい」

引き留めようとして、今度はご婦人が私の手を引いた。

「っ、待って! こんな騒ぎを起こして、何が目的なの」
「あなた、駄目よ、そんな――」
「大丈夫です。 きっと助けが来ますから。お二人を危険な目には遭わせません」

一か八か、男に歯向かうように言った私にご婦人が慌てる。だけど私は小声で、でもはっきりと答えた。翔くんは絶対に来てくれる。それまで時間を稼ぐだけ。でもここで私が怪我でもしたら、翔くんは私のそばを離れたことを後悔するに決まってる。そんなことにもさせない。

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