婚前どころか、フリですが ~年下御曹司?と秘密の溺甘同居~
「それよりさぁ、夏樹とはどうなってんのよ?」
「どうって?」
「またまた〜! 小春を助けたのは夏樹だって知ってんだからね〜」

にやにやと面白いものを見る顔で私をつつく菫に、飲み込もうとしたアルコールでむせそうになる。

「どういうこと!?」
「警備課の子が見たって。夏樹が大事そうに女の人を抱きしめてたとこ!女の顔は見えなかったけど、相手は誰なんだって噂が広がってるんだから」

なんと恐ろしい事態! モテにモテる翔くんの、あろうことか大事な人枠認定されてしまったらどうなることやら。栞さんみたいな美女ならまだしも、私じゃ皆納得しないでしょう!美しいものには美しいものを充てがいたくなるものでしょう!?

「私はそれが小春だってもちろん分かるけどさ、一部、噂の婚約者さんなんじゃないかって言う人もいて」

噂の婚約者…広報部以外の社員は、翔くんのことは一貫して遠巻きに見守るスタイルだ。その中で、私にアプローチしていることを知らない人たちは、彼には婚約者がいるのではないかと割と的を得た見解を示している。彼の婚約者と呼べる存在は、栞さん以外にいない。そして2人がお互いに結婚するつもりが微塵もないことを知っているのは私くらいなんじゃないだろうか。

「夏樹に婚約者なんていないよねー?小春知ってる?」
「ど、どうなんだろうね…」

菫はうーんと唸ってグラスを煽る。私と翔くんの同居がバレるのも、彼に許嫁がいるとバレるのもどっちも避けてしかるべき事実。とにかくこの話題は終わらようと曖昧に返事をしたのに…

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