婚前どころか、フリですが ~年下御曹司?と秘密の溺甘同居~
「えっ、夏樹ってやっぱ婚約者いたの? 実は俺、見たことあるんだよね。あいつが女の人と歩いてるとこ!」

口を挟んできたのは、向こうの山で盛り上がっていたはずの部長だ。そりゃあふたりは表向きには許嫁どうしで、私が彼女のふりで同居する前まではそれなりに体の良いお付き合いを振舞っていたんだから不思議ではない。それにしてもお酒も入っていて声が大きい。翔くんに聞こえちゃうじゃん!

「それがすっげぇ美女って感じでさぁ。夏樹、一色はもういいのか?」
「部長サイテー。 軽々しくそういうこと言わないでください! 夏樹が小春のこと諦めるなんて、そんなことあるわけなでしょ!」

聞いてもないのにぺらぺらと話し出す部長と、それをまた派手に否定する菫。ふたりともやめて…これ以上話を大きくしないで!

「一応言っておきますけど、俺は小春さん一筋ですからね」

さらに突っ込んできたのは話題の当の本人、翔くん。彼も離れたところにいたはずなのに、あなたまで真剣な顔で宣言しなくていいから!!
私はかあっと顔に熱が集まる。やってられない。
「ほらー! だから言ったじゃないですか!」と菫。それに対して「そうかぁ、そうだよな! 俺は応援してるぞ、夏樹!」と翔くんの肩をバシバシ叩く部長。翔くんも、「ありがとうございます」なんて満更でもなさそうだからもう…。楽しそうでなにより…。
やっぱり翔くん押せ押せムードのこの部署に、私は恥ずかしいやらいたたまれなくてお酒でやり過ごすしかなかった。
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