婚前どころか、フリですが ～年下御曹司？と秘密の溺甘同居～

「それって、〝まだ〟返せないってことですか？ 俺は一生小春さんの弟って決まったわけじなないってこと？」
「…ん？ えっと、夏樹くん…？」

何やら私の言葉が全然響いていないような台詞が聞こえたけど……

「小春さんは、真面目なんですね。そういうところも好きです。 でもこれは、真面目に考えすぎたらダメです。考えれば考えるほど、小春さん困るでしょ？」

だから真面目に考えないといけない、と思うんだけど！？

「夏樹くん、それは、」
「俺は、フリでも付き合うなら小春さん以外考えられません」

黒目がちの大きな瞳が私を真っ直ぐに捉えて、目が逸らせない。
飲み込まれるな。夏樹くんの曇りなき眼に押されるな。

「それに、彼女のフリをすることになったら、一緒に住んでもらわないといけないんです。結婚を前提に付き合っていることをアピールするには、同棲が手っ取り早いかと思うので」

夏樹くん…なんでそんなに冷静でいつも通りなの…？
あなた今、ものすごいこと言ってると思うんだけど。

「一応聞くけど、それっていつまで続けるの？ 嘘の恋人とか、いつまでも騙せるとは…」
「小春さんが了承してくれたら、すぐに俺の許嫁に別の結婚相手を見つけます。 向こうの親は、とにかく嫁ぎ先があればいいと思っているみたいなので。 そうすれば、今すぐ結婚しなきゃいけない状況からは逃れられます」

抜かりないんだなぁ…。そんなに嫌か、結婚が。まあでも、好きでもない相手と一生を誓い合うっていうのは、あんまり気が進まないよね。本人の意思とは関係なく結婚を決められる世界線…そんなの良家のお坊ちゃまくらいなものかと……あれ、？