婚前どころか、フリですが ~年下御曹司?と秘密の溺甘同居~
「眠そうですよ、目がとろんって感じで」
「うそ、私そんな顔してた?」
「大丈夫です。気づくのは小春さんのことずっと見てる俺くらいなので」
「そ、そうなんだ…」

完全に素面ではないにしても、翔くんてお酒そんなに飲んでなかったよね?なのにこんな、恥ずかしげもなく堂々とそんな……

「あ、今照れました?」
「照れてません。 あまりにも正直だからびっくりしただけです」
「ちょっとくらい顔赤くなるとかしてくださいよ、まったく」

残念。今顔が赤くなっても、お酒のせいにしちゃうから意味はないよ。
分かりやすく不貞腐れる翔くんがおかしくて、くすくすと笑う。そこで思い至って、私は少し焦る。

「私に付き合って翔くんも帰ってきちゃって良かったの? せっかく営業部とか警備課も一緒だったし、積もる話もあるんじゃない?」
「十分積もらせましたよ。 それより俺は、早く帰って小春さんとふたりになりたかったです」

にっと口角を上げる翔くんに、私はにっこりて笑顔を返す。

「うん。早く帰ってお風呂入って寝ようね」
「俺は本気なのに…」

ふたりになりたかった。その言葉にどきどきしなかったなんて言ったら嘘になる。だけど分かりやすく照れてあげる度胸はない。彼と向き合って、自分の気持ちがはっきりしてしまったらその先は?普通の恋が普通に始まるだろうか。そんな不安は拭えない。

翔くんのことは信頼していて、優しくて頼りがいがあって一緒にいると安心する。この心地の良い関係のままでいたい。それは私が弱いから、安全なところで翔くんと繋がっていたいという身勝手な考えで。恋をしてしまったら、楽しいだけじゃいられない。苦しいことも辛いことも、全部背負っていかなきゃいけない。翔くん、あなたはそうやって、私に好きだと言ってくれているの?
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