婚前どころか、フリですが ~年下御曹司?と秘密の溺甘同居~




今年も桜の満開時期を予想するニュースが流れるようになった。新しい年度の始まりの季節がやってくる。
その日私は朝からベリが丘の住宅街の一角、翔くんの家からさらに奥に進んだ区画の邸宅に来ていた。
広さだけは十分のリビングで、目の前には父と母、そして傍らに弟の遥太(ようた)。翔くんと年が近いけど、遥太は彼ほどの落ち着きはない。若者特有の勢いとパワー全開で外資系企業に勤め海外を飛び回っている。そんな家族4人が揃ったここは実家である。
それにしても、久しぶりに訪れた実家では家族団欒…なんて雰囲気ではなく、私は家族全員に詰められていた。
理由は、この間のパーティーでの事件について私が何も話さなかったからだ。3人はニュースで事件を知り、父の仕事関係の同僚伝いに私が巻き込まれたことを把握したらしい。それについては、特に怪我をしたとかではないし余計な心配をかけたくなくて言わなかったのだけど…こうなるなら話しておくべきだったかも。

「えっとー、黙ってたのはごめん。 でも本当に大したことなかったし、大丈夫なんだよ」

わざと明るく言ってみるも、3人の表情はなんともいえない。妙な空気に耐えかねていたところで、遥太が口を開く。

「姉ちゃん。それも心配だったけど、俺らが聞きたいのは別のこと」
「遥太…! ちょっと待ちなさ――」

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