婚前どころか、フリですが ～年下御曹司？と秘密の溺甘同居～

「…夏樹くん。 夏樹くんって、どこかの御曹司だったりするの？ ヤガミホールディングスとか京極グループとか、直系じゃないにしても…」
「違います。 八神家も京極家も関係ありません。 血筋は掠ってもないです」

何も大企業はそのふたつだけじゃないけども。例えばもっと大きいところだと、うちの会社とかさ。夏樹くんて姿勢や所作、魚の食べ方まで綺麗なんだよね。育ちの良さが滲み出てるっていうか……。

ツインタワーで働く人は、だいたいが少なからずべりが丘と関わりのある名家の生まれだ。
夏樹くんもそれはそうなんだろうけど、それにしては上級層って感じ。一体どこの家の息子なの？って思う。
アッパー層の中でも、べりが丘の上層にある家といえばツインタワーの会社の社長、北条家とか…
いやいや、さすがにないよね。名家中の名家のご子息が私みたいな一般人と広報部で働くなんてありえない。そうだとしたら私は会社の御曹司の教育係りをしていることになる。恐ろしい。実は大役でした、なんてシャレにならない。とにかく、どこかの御曹司かどうかについては答えてくれないらしい。

「…御曹司とかでは、ないっす」

あぁ、これは…。
夏樹くんが敬語をちょっと崩して話すのは、照れてる時と何かを誤魔化す時だけ。
自分に都合の悪い時のくせなんだけど、本人は気づいてないんだよね。社会人として分かりやすすぎるのも苦労するだろうから、いつか教えてあげよう。
というか、これで夏樹くんがどこかしらの御曹司っていうのはほぼ確定なんだよなぁ。
外部からのスカウト組ではなかったか。やっぱ、只者では無いな、この子。