婚前どころか、フリですが ~年下御曹司?と秘密の溺甘同居~
「翔はその辺り、小春さんが気にするだろうってなんとか解決したいんじゃないでしょうか。自分の大切な人を、大切な人にも認めてもらいたいという気持ちもよく分かります」

翔くんが大切な人。守りたいもの。私はそれらに入っているのだと散々伝えられてきた。どうして、ただ好きなだけでは上手くいかないのだろう。翔くんはそうして、色んなものを越えてきたのだろうか。営業部に警備課に広報部。短期間で何度も環境が変わり一から仕事を覚え人間関係を築くのは、いくらタフで有能な彼でも大変だっただろう。

「翔のこと、どうかお願いします。 あいつはいつまでも憎たらしい弟分ですが、同じような環境で育ってきたので苦労や努力は分かるつもりです。 本当に好きな人と一緒に幸せになる未来を、翔も、私も諦めません」

栞さんの心からの言葉は、胸にしっかりと重く響いた。翔くんを思うのと同時に、やっぱり私には彼の幸せを担うことなんてできないんじゃないかとも考える。それに、お父様の反対を押し切ってまで私と一緒になって、それで彼は幸せになれるのだろうか。彼の恋愛感情が一時のものだったとして、いつか私を選んだことを後悔するんじゃないだろうか。翔くんには笑っていてほしい。できれば私のそばで。だけどこれは、私ひとりで結論を出すことではない。先を見据えて、翔くんがいちばん良いと思える結果を。そのためなら、確かに心の奥に芽生えているこの感情を忘れ、そんなもの最初から無かったかのようにもできる。私は年上で、先輩だから。大人ぶることが、今の私にできること。


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