婚前どころか、フリですが ~年下御曹司?と秘密の溺甘同居~
栞さんと会ってから数日が経った。相変わらず翔くんは帰ってこなくて、ひとりでの食事は一人暮らしの時を思い出す。彼と同居して、誰かと食べる方が何倍も美味しく感じるって改めて気づいた。
でもその日は違った。久しぶりに翔くんは仕事を終えてそのまま帰宅してきた。時間差で会社を出るようにしているので、私が帰ってから三十分後くらいに彼はリビングに顔を出した。
「小春さん、今日は俺が夕飯用意します」
「いいの? 翔くんの手料理久しぶりだから嬉しいなー」
疲れているでしょう、なんて聞くのは野暮な気がした。こういう時、察しが良すぎる性格はいやだ。夕方、日が長くなってきて外はまだ明るい。翔くんがキッチンに立っていて、だんだん美味しそうな香りが広がり食欲を刺激する。私は盛り付けたり食器を並べたり、こんな時間はずいぶん無かったように思う。翔くんは他愛のない話をずっとしていて、饒舌なのは珍しい。笑顔も前みたいに眩しいけれど、無理しているようにも見えた。
「いただきます」
手を合わせ声を揃え、一緒に食事をする。いつの間にか当たり前になっていて、最近を考えると貴重な時間だ。
「美味しい! やっぱり翔くんのお味噌汁がいちばん染みる〜」
「感想がおばあちゃんみたいですよ」
「私が作ってもこうはならないんだよなぁ。翔くん、いい嫁になるね、絶対」