婚前どころか、フリですが ~年下御曹司?と秘密の溺甘同居~
お味噌汁が温かくて美味しくて、言ってから少し後悔した。今までなら、なんとなく翔くんの言いそうなことは見当がついた。嫁になるのは小春さんですよ、とかなんとか言って、私を困らせるのが定番でしょう?
しばし間があって、翔くんは言う。

「そうですね。 …でも小春さんの味噌汁も、俺は好きです」
「そう? 嬉しいこと言ってくれるね」
「俺がいなくても、ちゃんと味噌汁作ってくださいよ。面倒だからって丼ばっかりはダメですからね」
「はぁい…」

翔くんがいない日の夕飯がだいたい丼物なの、バレてる。そりゃそうか。翔くんが外で食べてくる日も、帰ってきたら私の使った食器があるんだから。
夕飯をしっかり味わって、後片付けは二人で。この流れも、なかなか板に付いてきたよね。この後は順番にお風呂に入って、寝る前に少し団欒をする。テレビを流したり録画してあった週末のロードショーを見たり、翔くんは雑誌を読んでいて、とか。それぞれの時間を同じ空間で過ごす夜。

「小春さん」

翔くんが呼ぶ。翔くんが隣に腰かけてソファが沈み込んだ。

「どうしたの?」
「栞との許嫁関係が無くなりました。ずっと父と話していて、俺の粘り勝ちです」
「良かったじゃない。 これで翔くんも栞さんも、自由の身でしょう?」

手放しで喜んでいる…なんて雰囲気では全然ない。翔くんは真剣で、その瞳は静かに深い闇を宿しているみたいで感情が読めない。

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