婚前どころか、フリですが ~年下御曹司?と秘密の溺甘同居~



翌朝、起きた時にはもう翔くんはいなかった。昨日の今日で私を避けて…る感じではなかったし、本当に予定があるのだろう。何かを考える間もないように淡々と荷造りをしていたら、翔くんから聞いていた時間ぴったりにインターホンが鳴る。
尋ねてきたのは初老の男性で、彼が翔くんの言っていた運転手だ。

「一色様ですね。 翔様から伺っております」

一色様…翔様…聞きなれない呼ばれ方に一瞬困惑するも、「よろしくお願いします」とその男性とともに引越し作業を開始した。翔くんが私のために用意してくれスリッパは、迷って、置いていくことにした。
久しぶりの我が家は狭かった。翔くんの家と比べたら当たり前だけど、一人で住むには十分の広さ。帰ってきたんだなぁとぼんやり考える。
私と翔くんは元の関係に戻る。


月曜は少し早起きをして朝食を作ってみた。といっても、一人の時にしていた納豆ご飯にプラス味噌汁を付け加えただけだけど。やっぱり翔くんの味噌汁みたいに美味しくはならなかった。
なんて悲観してばかりいられない。ここからだと家を出る時間も早まるから、元の生活に早く体を戻さないと。

出勤してカフェオレをマグカップに注いで…いつも通りを頭に浮かべていたら、オフィスに入ってすぐに菫の叫び声にも近い声が耳に飛び込んできた。

「夏樹が辞めたってどういうことですか!?」

夏樹…その単語と、菫の言葉が結びつかない。

「いや、辞めたというかその、収まるところに収まった感じで…――あ、一色! お前は知ってるだろ?矢野に説明してやってくれ、夏樹のこと」
「夏樹くん、何かあったんですか…?」

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