美しき造船王は愛の海に彼女を誘う

 この手の車はこの地域にとても多い。中が見えない。高級車だからか音も小さく、その割にはピタッと店の前に止まった。

 運転手のどうぞという声がして、車の扉を閉める静かな音がした。磨きぬかれた革靴がこつこつと音を立てて目の前に来た。

 背中を向けて最後の鉢植えの花を並べ替えていた私は、急いでエプロンの土を落とした。

 そして作り笑顔を張り付け、勇気を出して振り向いた。

「……いらっしゃいませ」

「なんだ、その辛気臭い顔は。花屋なんだからぱあっと明るく、例の調子で、はずれた音程のチューリップの歌でも歌えよ」

 尖った弓矢のようにすごいセリフが私に容赦なく切りかかった。まるで漫画のようだ。
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