美しき造船王は愛の海に彼女を誘う

 髪がくっついている。注意しないといけない。

 僕が出ていこうとしたら、椎名がばたんとドアをロックして、車を発進させた。

「おい!」

「お時間です」

 ここ最近、僕は車の中からブラッサムフラワーの店先を覗いていた。とにかく最近は忙しくて、外出でこうやって通りを過ぎるときに店先を見るのが精いっぱいだ。

 話しかける時間がない。だから、必要があれば電話を夜かけるようにしている。
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