美しき造船王は愛の海に彼女を誘う

「……椎名さん」

「旦那様と奥様にご面会されるときはそれなりに準備をこちらでも致しますからご心配なさらないでください」

「……」

「とにかく、蓮様をよろしくお願いします」

 急に立ち上がって執事らしく丁寧に頭を下げられる。びっくりしてしまった。

「そんな、頭を御上げください」

「いいえ。蓮様はうかれています。何かしたら叱ってください。大丈夫、きっと叱られても別れると言われるよりは耐えられます」

「あはは、椎名さんったら」

 二人で顔を見合わせて笑った。笑っている場合ではなかったのだが、椎名さんの言葉は暖かくて、私の怯えを取り除いてくれた。
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