美しき造船王は愛の海に彼女を誘う

 後から運転手が花かごを持って出ていった。そうだよね、お付きの人がいるのよね。自分から見たら雲の上の方だとすぐにわかった。

「それでは、ありがとうございました。素敵な夜をお過ごしくださいませ」

「ああ、君もね」

 彼は魅惑的な笑顔を残して去って行った。これだもの。モテて困るのはしょうがないわねと思ってしまった。

 花言葉作戦が成功しようと、失敗しようと、これからはもう、彼に直接お目にかかってお話をすることもないだろう。

 だって、いつもご注文は眼鏡の椎名様という方がなさる。きっと今日だけ特別に彼だったのだろうから、どちらにしてもこういった意味深なご注文はきっとおしまいだわと、さくらは走り去る車を見ながら思っていた。

 まさかその素敵な人と、数時間後また会えるとは夢にも思っていなかった。





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