美しき造船王は愛の海に彼女を誘う

 ホテルというより、どこか別荘のようなしつらえなのだ。だから落ち着くのだろう。会員制。つまりリピーターがお客様。

 飽きるような目新しさではなく、いつ来ても落ち着く空間を作っているんだろうと思った。

「さくら、ずいぶん痩せたな……」

 私を抱き寄せた彼はすぐに異変に気付いて私を上から下まで凝視した。

 この姿を見せたくなかった。でも、彼が恋しい、逢いたい。すべてを忘れさせてほしい。その気持ちに負けてしまった。

 彼は仕事上がりだったのだろう。スーツだった。背広を脱いでワイシャツとチェニック。相変わらず素敵だった。
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