美しき造船王は愛の海に彼女を誘う

 名取がツインタワー内のホールで夜まで仕事があるというので、その高層フロアにあるバーラウンジで待ち合わせにしたのだ。

 実は、ここは名取がよく待ち合わせに指定してくる場所。彼のいつも宿泊しているホテルとツインタワーを繋ぐ送迎バスも出ている。ここで仕事をしてそちらに泊まる人も多いのだ。

 今日も大きな窓から見える夜景がきれいだ。ここは来るたびに優雅なベリが丘を見下ろせて、小市民の自分でも不思議な気分になる。

 ラウンジへ入ると、名取を探す。いつもわかる場所にいてくれるのだが、今日はカウンターにいない。立ち尽くしていると、バーテンに声をかけられた。

「どなたかとお待ち合わせでしょうか?」

「あ、はい。名取さんと……」
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