美しき造船王は愛の海に彼女を誘う

 お茶を下げてくれた事務所の子が言った。

「あの人、確か林芹那さんですよね。最近はすっかりメディアに出なかったですけど、どこにいたんです?」

「そうねえ。まあ、ちょっとね。さ、続きをやりましょう。これは私が片付けるから続きお願い」

 私は彼女のくれた大きな花束を一番気に入りの大きなフラワーベースに移した。

 花は裏切らない。彼女の謝罪が見えた。

 そして、彼女が去り、私を待っていてくれるであろうお客様の顔が浮かんだ。

「……戻らなくちゃね」

 戻れるように努力しようと決めた日だった。
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