美しき造船王は愛の海に彼女を誘う


「……君がいない世界で僕は息ができない」

 こうなるのがわかっていたから……だから嘘をついてまで、彼に会えないと断っていたのだ。だって、逢ってしまうと私の心は彼でいっぱいになって溢れてしまう。

 私の心が、何も考えずにあなたの側で毎日こうしていればいいと悪魔のささやきを繰り返すのだ。

 息ができないのは私のほう。あなたといると、こうやってあなたでいっぱいになり、他のことは考えられなくなる。

 前はこうじゃなかった。身分違いを認識し、我慢が出来た。でも最近はだめなの。あなたが欲しくて、求めすぎてしまう。

 あなたは私に何も心配はいらないから戻れと言う。

 私はあなたの側にいることを認めてもらえる人間になれただろうか。彼の横顔を見ながら眠りについた。
< 332 / 403 >

この作品をシェア

pagetop