美しき造船王は愛の海に彼女を誘う

「なかったよ。何しろ、彼女が自分で父親に頼んで、向こうから破談にしてほしいと頼まれたくらいだ」

「ええ?!」

「ビジネス街の店は君がいなくなり、見る間に凋落した。僕はわざと助けなかった。彼女、店を去る直前に訪ねてきた。謝られたよ」

「そうだったの」

「君は巻き込まれていい迷惑だったな。彼女は元から僕とどうこうなる気はなかったと言ってた」

 それはどうだろう。彼女はそう言っていたがそうじゃなかったと思う。あわよくばと思っていたに違いない。

 とにかく、彼女もあちらで今頃頑張っていることだろう。彼女が帰ってきたときに笑われないようにいい店にしたい。

 しばらく車で走るととりわけ大きな目立つ家が見えてきた。これって、どう見ても日本建築じゃない。
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